活動報告

戦争と平和を考える講演会「平和な日常が奪われる時」を主催しました

開催日時 2025年11月2日(日)
会場 茨木市市民総合センター(クリエイトセンター)多目的ホール
参加者数 約100名
講師 ヴァルタン・ムラディアン氏(元国連難民高等弁務官事務所職員)
通訳 千田氏(元国連難民高等弁務官事務所職員)

開催の背景

2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、今なお続いています。国際情勢が急速に変化する中、平和は決して当たり前のものではありません。遠い国の出来事に思える戦争を自分事として捉え、平和の尊さと脆さについて考える機会として、当クラブは本講演会を企画しました。

本講演会は、2023年4月に開催した第1回講演会が好評だったことを受けた2回目の開催です。今回は最新の動向をお伝えするとともに、前回十分な時間が取れなかった質疑応答の時間を多く設け、参加者との対話を重視した構成としました。

講師について

講師のヴァルタン氏は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の職員として、2015年からウクライナで難民支援に携わっていました。しかし同氏は、2022年のロシアによる全面侵攻の際、自らが難民となる経験をしました(現在、UNHCRを離職しています)。

通訳を務めた千田氏は、元UNHCR職員であり、2016年から2018年にかけてバルタン氏とともにウクライナの事務所で人道支援に携わった経験を持ちます。

講演の主な内容

家族の難民の歴史

ヴァルタン氏は、自身の家族が経験してきた難民の歴史を語りました。1915年のアルメニア人虐殺を経て曽祖父母の世代が最初の難民となり、ソ連崩壊後の紛争により祖父母と両親の世代がウクライナへ移住、そして2022年の侵攻により氏自身が4代目の難民となりました。難民になるたびに、家、友人、全ての所有物を置いていかざるを得ない困難な生活を強いられてきたことを強調しました。

ウクライナの現実

多くの人が戦争は2022年から始まったと思っているかもしれませんが、実際にはロシアが2014年からクリミア半島やドンバス地方の一部を占領しており、その時点で戦争は始まっていたと指摘しました。2022年以前のドンバス地方では、日々砲弾が飛び交う無法地帯となっており、電気も水も食料もない状態で逃げられない高齢者や身体の不自由な方々が残されていました。

全面侵攻後は、マリウポリ、ハルキウ、ブチャといった都市の建物が戦車やミサイルで破壊され、状況はさらに悲惨になりました。ヴァルタン氏は、戦争は何もたらさず、ただ破壊のみがあるだけだと訴えました。

ブダペスト覚書と平和への道のり

1991年のソ連崩壊時、ウクライナは世界で3番目の核兵器大保有国として独立しましたが、将来の自由と安全保障を手に入れるため、核兵器を自ら放棄する選択をしました。1994年、アメリカ、ロシア、イギリス、ウクライナの首脳がブダペストで覚書に署名し、ウクライナの核放棄と引き換えに、これらの国々がウクライナの領土保全と主権を尊重し、安全保障を守ることを約束しました。

しかし、ロシアは自ら署名したにもかかわらず現在の侵攻を行っており、覚書の内容は破られた状態にあります。この事実は、停戦交渉を困難にしている大きな要因となっています。

日本との関係

ヴァルタン氏は、日本がウクライナを継続的に支援している国の一つであることに触れ、これまでに120億USドル(約1兆8千億円)の支援を提供しており、アメリカ、EUに次ぐ3番目の規模であることを紹介しました。日本の支援は人道的支援、医療的支援、教育支援を中心とする平和的な支援であり、この貴重な関係が今後も続くことを望むと述べました。

また、多くのウクライナ人が、日本を伝統的な文化と近代的な発達が結びついている場所と見ており、戦災から復興し国を再建した例は、ウクライナにとっての良いモデルとして捉えられていることを説明しました。

質疑応答から

講演後の質疑応答では、活発な意見交換が行われました。

核兵器放棄の是非について、ヴァルタン氏は、多くのウクライナ人が核兵器を放棄した過去の決定について後悔しており、核兵器を持っていたら侵攻は起きなかったと考えていることを明かしました。しかし同時に、核放棄という決定は、誰が平和を望んでいるか、誰が平和を望んでいないのかを世界に明確に示すことになった点で正しかったとも考えているとのことでした。

国連の有効性については、2022年の全面侵攻以降、ウクライナ人の国連に対する信頼と効率性への評価は大きく下落し、失望感が広がっていることを説明しました。ロシアが安全保障理事会で拒否権を持っていることが行動を困難にしており、国連の枠組みそのものが軍事的な状態への支援をしにくくしており、大きな改革が必要だと指摘しました。

停戦交渉については、ロシアが1994年のブダペスト覚書をすでに破ったため、現在の占領地で手を打ったとしても、ロシアが今後二度と侵攻してこないという保証がないことが、交渉を困難にしていると説明しました。

参加者へのメッセージ

ヴァルタン氏は、参加者に対し、この問題について真剣に考えてくれたことに感謝を述べ、「皆さんは決して一人ではありません」というメッセージを送りました。

自分たちが握っている「自分の力」を放さないでほしい、一人一人の声は、時にその力がわかりにくいかもしれないが、協力し合うことで人類全体にとって大きな力になることを忘れないでほしいと訴えました。