コラム

【寄稿】サステナブルな生態系を未来へ~水循環と環境再生を横断的に解決するアプローチ~

お庭屋さんほうき法貴弥貴様から寄稿いただきました。


危機感と決意

造園の仕事をしている私は、山や街の緑がどんどん減り、水の流れが途切れていく様子をたくさん見てきました。気温の上昇とともに土砂崩れは激しさを増し、生物多様性は減少し、地下水位も低下し続けています。

日本の生活は豊かな自然の上に成り立っています。この土台が揺らいでいるという不安から、私は「環境を元に戻すことを会社の使命にする」と決意しました。

学びと挑戦

最初に見直したのは自分の仕事のやり方でした。自分では安全な無農薬野菜を食べたいのに、仕事では農薬をまいていた矛盾に気づきました。そこで、すべての仕事で農薬を使わない自然な庭づくりに切り替えました。土の中の小さな生き物を活かし、その土地にもともとある植物を組み合わせることで、お金をかけずに自然を守れることがわかりました。

また、頻発する山崩れの現場を見て回るうちに、日本各地に伝わる石積みや木の柵、水路などの昔ながらの工法が、その土地の気候に合わせて「しなやかに力を逃がす」構造になっていることに気づきました。この知恵を現代の設計に取り入れれば、コンクリートだけの方法よりずっと持続可能な防災ができると考えました。

こうした発見は、山や川、海、畜産、教育など様々な分野の専門家と一緒に現地を見て回る中で深まっていきました。そして、私たちが直面している環境問題—急速に減る緑、激しくなる土砂災害、失われる生物多様性、下がり続ける地下水位—これらすべての問題の根源は「土の中の水と空気が循環しなくなったこと」だとわかってきました。分野を超えた協力が解決への近道だと感じました。

行き詰まりと視点の転換

ところが、専門家同士を直接つなげても、「私と彼は、この部分の考え方が違う」「私はこういう事をしているが、彼らはこういう事をしているので一緒にできない」「お会いしても協力できることはない」など、話し合いはうまくいきませんでした。研究分野や資金源の違いが壁になり、議論は平行線のままだったのです。

そこで私は、「一般市民であり一企業」という自由な立場を活かし、役所や学術界の制約にとらわれず柔軟に動く方法に考え方を変えました。

越境する実践

考え方を変えるとすぐに具体的な行動につながりました。都市の住宅では、水を浸透させる舗装や雨水を貯留浸透させる雨庭や池、植物を組み合わせ、1軒ずつ雨水を地下に戻す設計をしました。その結果、都市の内水氾濫や河川の氾濫を防ぐことが、住宅地でも可能であることを、国土交通省のグリーンインフラプラットホームのGIJでも発表しました。

さらに、家の庭を「点」、学校や公園を「面」としてつなぎ、生き物の住みかをつなぐ緑の道づくりを進めました。すると、チョウやトンボが戻ってきて、地域の小学生や中学生と一緒に環境学習も始まりました。

こうした活動を市民にも広げるため、埼玉県川越市で「雨水フォーラム」を開きました。研究者・役所・住民合わせて80人が参加して都市の自然を活かした基盤づくりについて話し合いました。この会から「グリーンインフラ市民学会」が生まれ、国交省との意見交換も始まっています。

共創への招待

次は、震災から30年を迎える神戸で「水の環フォーラム」を開催します。森林を守る団体、海の関係者、水循環関連の企業、学生、市民など150人規模で川の上流から下流までを考えた実践計画を作ろうとしています。

私はこの場で、経営者・専門家・市民に3つのことを呼びかけます。

  1. 事業と環境回復の直結
    自分の会社や専門分野を環境回復と直接結びつけること。例えば、製造業なら出る熱を町の暖房に使う、IT企業なら環境データを共有する仕組みを作るといった方法です。
  2. 境界を超えた協力体制の構築
    地域・業種・学問の枠を超えた協力関係を作ること。川の流域単位での約束ごとや、分野を超えたグループ、市民も参加するプロジェクトを組み立ててほしいと思います。
  3. 成果の公開と教育への還元
    得られた成果を公開して、大人と子どもたちの教育に役立てること。未来の世代の学びと行動につなげていくことが大切です。

私たち経営者や大人は、業種、地域を超えて繋がり、行動する方法を知っています。日本の自然環境の豊かさは、世界でもトップクラスです。その恩恵を受けているからこそ、私たちの経済は永続できています。

その根本的な資本である大切な自然環境を回復させられるのも、私たち経営者の視点ではないでしょうか。未来への大きな投資と、私たちが受け取っている先人たちの大きな恩恵を繋げるのです。それぞれの得意な仕事で、各企業が本気で取り組めば、すぐにでも未来を変えられると信じています。


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