ロータリークラブは1905年、アメリカのシカゴにおいて、若き弁護士ポール・ハリスら友人3人によって創立されました。当時のシカゴは社会経済の発展が著しい一方で、商業道徳の欠如が目立つようになっていたことが、設立の背景にあります。ハリスは、互いに信頼できる公正な取引をし、仕事上の付き合いがそのまま親友関係に発展するような仲間を増やしたいという趣旨でロータリークラブを考案しました。
このように、私たちロータリーはその誕生の歴史的経緯から、職業倫理を組織の核心に置いてきました。私たちの「四つの奉仕」の一つである職業奉仕は、単なる活動分野の一つではなく、ロータリーの目的(第二条)として、「職業上の高い倫理基準を保ち、役立つ仕事はすべて価値あるものと認識し、社会に奉仕する機会として各自の職業を高潔なものにすること」が謳われています。
この職業奉仕を、私たちロータリアンが 「金看板」 (最も重要な理念)と考えるには、以下の四つの理論的根拠があります。
四つの理論的根拠
職業の価値生産性
職業奉仕を金看板と考える第一の理由は、 「職業の価値生産性」 にあります。私たちは生きていく中で社会に価値を生み出しますが、職業人にとって、職業を通じて生み出す価値が最も大きなものとなります。
しかし、職業上の行為は、自己の経済的利益を得る手段として行われるため、そのやり方によっては、社会に害悪(例として公害問題や詐欺的商法など)を生み出す可能性もあります。職業奉仕の精神を持つことにより、職業人は、仕事を通じて積極的に社会に価値を生み出すよう努力することになり、結果として社会に生み出される価値は莫大なものとなります。私たち一人ひとりが日々の業務において高い倫理基準を保つことで、その影響は個人の範囲を超えて、地域社会全体、さらには国際社会にまで波及していくのです。
職業奉仕の不可避性
第二の理由は、 「不可避性」 です。職業人は、自己にもたらす利益だけでなく、相手(顧客)や社会にもたらす結果や影響を考慮せざるを得ない立場にあります。自己の利益だけを考えて商売をすれば、顧客は離れてしまうためです。
個々の職業人が自己の利害追求に傾くか、世のため人のための利益をどれほど取り入れるかは人それぞれですが、職業人は仕事を行う際に、相手や社会の利益について一度は考えざるを得ません。この意味で、職業奉仕という問題に直面することは避けられず、私たちロータリーにとってその理念は無視できないものとなります。職業人である限り、この倫理的判断から逃れることはできないのです。
人生における根源性
第三の理由は、 「根源性」 です。多くの職業人にとって、家庭生活を除けば、人生で最も多くの時間とエネルギーを注ぐのは職業上の行為です。人は職業を通じて価値を創造し、他人との人間関係を築き、社会に参加しています。
したがって、どのような姿勢で職業を営むかという問題は、人生の根源に関わってきます。この職業を営む姿勢を根本的に規定するのが、職業奉仕の精神であるため、私たちロータリーの理念として極めて重要です。職業は単なる収入源ではなく、自己実現の場であり、社会との接点であり、人格形成の基盤となるものです。だからこそ、職業における倫理的な在り方は、人生そのものの質を決定づける要素となるのです。
奉仕団体における社会的分業
第四の理由は、 「社会的分業」 です。世の中にはさまざまな奉仕団体が存在しますが、私たちロータリーほど「職業奉仕」を重要な理念として強調してきた団体は少ないです。
それぞれの奉仕団体は、設立経緯や歴史的経過に基づき、それぞれの特長を生かすべきという考え方があります。例えば、ある団体は福祉支援に、別の団体は災害救援に重点を置くといった形で、各団体が得意分野を担当することで、社会全体により効果的な貢献ができます。
私たちロータリーが職業奉仕を「金看板」として掲げることにより、他の奉仕団体と役割を分担し、社会的な分業に基づく貢献が可能となります。具体的には、「職業上の高い倫理基準の保持」や「職業を通じた社会への価値創造」という、職業人・実業家集団としての独自の領域を担当することになります。
これにより、私たちロータリーはその独自の特長と存在意義を最大限に生かすことができ、他の奉仕団体がカバーしきれない分野で社会に貢献することが可能となるのです。この役割分担こそが、ロータリーが職業奉仕を金看板とする重要な理論的根拠の一つとなっています。
ロータリーの持続的な奉仕の基盤
職業奉仕は、単に私たちの活動の選択肢の一つではなく、会員が職業人であるというその 「根源性」 、そして仕事が社会に与える影響を無視できないという 「不可避性」 に基づいています。さらに、職業を通じて生み出される 「価値生産性」 の大きさ、そして他の奉仕団体との 「社会的分業」 による独自の役割という、四つの理論的根拠があるからこそ、私たちは「職業倫理を尊ぶ実業人、専門職業人の集まり」として、地球規模に拡大した後も、多方面にわたる奉仕活動を支える確固たる基盤となっているのです。
私たちが掲げる「四つのテスト」(真実、公平、好意と友情、みんなのためになるか)もまた、職業上の高い倫理基準を保ち、奉仕の理念を実践するための具体的な行動指針として、職業奉仕の精神を支えています。この指針は、日々の業務における意思決定の場面で、私たち一人ひとりが立ち返るべき原点であり、職業奉仕という「金看板」を実践するための具体的な道標となっているのです。