なぜ組織は「前例踏襲」に陥るのか
歴史ある組織ほど陥りやすい罠があります。それが「単年度思考」です。
ロータリークラブの運営においても、この課題は深刻です。毎年RI(国際ロータリー)のテーマが変わる中で、クラブ自体の基盤が固定されていないと、その年を「波風立てずに過ごそう」という思考に陥りやすくなります。リーダーが交代するたびに方針が変わる、あるいは逆に本質的な課題解決が先送りされる。自分がリーダーの期間だけ無事に過ぎればよいという「事なかれ主義」が、マンネリを生む原因となっているのです。
企業経営者の視点で見れば、長期的な計画なしに1年ごとに方針が変わるのは「死」を意味します。しかし、非営利組織や安定した企業では、こうした状態がまかり通ってしまうことがあります。この危機感を、私たちは直視する必要があります。
若手とベテランの「ボタンの掛け違い」
多くのクラブで会員減少や高齢化が進む中、若手経営者や支店長クラスが入会しても定着しないケースが散見されます。組織の若返りを図ろうと若手を採用しても、すぐに離脱してしまう。この現象の背景には何があるのでしょうか。
原因の一つは、ベテラン会員が振りかざす「歴史と伝統」という名の参入障壁にあります。「まだ早い」「若いくせに」と意見を封殺したり、入会歴の浅い会員に役職や発言権を与えなかったりする風土が、組織の硬直化を招いています。
新入会員は自身のビジネス分野ではリーダーであり、プロフェッショナルです。にもかかわらず、クラブ内では「新人」として扱われる。このギャップにやりがいを感じられず、去っていく人が後を絶ちません。「黙って見ていろ」「下積み期間」という古い育成モデルが、即戦力である現代の若手の意欲を削いでいるのです。
全員参加の「ビジョン策定」が組織を変える
マンネリ打破の特効薬として注目したいのが、全員参加型の「中長期ビジョン策定」プロジェクトです。
ある元ガバナーが所属するクラブでは、創立50周年を機に「21世紀委員会」というプロジェクトを立ち上げました。「10年後、20年後に地域社会でどういうクラブであるべきか」を見直すため、3年かけてビジョンづくりを行ったのです。
重要なのは、結論そのものよりも、会員全員で膝を突き合わせて議論したプロセスそのものでした。当時の会長主導のもと、ワイワイと議論を重ねることで、「歴史と伝統を重んじるクラブ」から「進取の気性に富んだクラブ」へと組織風土が劇的に変化しました。
このプロジェクトでは、若手が抱く「なぜこんな手続きがあるのか」という素朴な疑問に対し、ベテランが歴史的背景を説明しつつも、現代に合わせてアップデートする姿勢が求められました。「生意気だ」「黙って従え」と返すのではなく、背景を理解した上で変えていく柔軟性です。
当初は「歴史を重んじろ」と言っていたベテラン会員たちも、議論を通じて納得し、最終的には改革案に合意しました。トップダウンでビジョンを与えるのではなく、「自分たちの組織はどうあるべきか」を議論し尽くすプロセスが、保守的なベテラン層をも巻き込んだのです。「過去の否定」ではなく「未来の創造」へ議論の軸を移すこと。これが成功の鍵でした。
居心地の良い「場」がイノベーションを生む
ビジョン共有の先にあるのは、心理的安全性の高い組織、すなわち「居心地の良い場所」です。
最終的に組織の良し悪しを決めるのは「雰囲気」にほかなりません。たとえビジネスライクな関係であっても、会場に入った時に名前を呼んで挨拶し合う、自分に関心を持ってくれる仲間がいる。この「居心地の良さ」がなければ人は定着しません。
松下幸之助が大阪のクラブを訪れた際、一人ひとりに丁寧に挨拶したというエピソードがあります。挨拶や声かけといった基本的なコミュニケーションが、実は最強の定着維持(リテンション)施策なのです。
ビジョンを共有し、互いに役割を認め合うことで、組織は単なる集まりから「人生を変えるような機会」を提供する場へと進化します。ロータリアンとして、私たちが目指すべきはこうした組織のあり方ではないでしょうか。「誰かの人生を変えるきっかけ」を提供できる組織こそが、持続可能な成長を遂げるのです。
