経営者が資産を持つ意味とは
企業の成長と共に築かれた資産を、経営者はどう扱うべきか。これは多くの企業人が一度は向き合う問いではないでしょうか。
製氷機や厨房機器のトップメーカー、ホシザキ株式会社の取締役会長を務める坂本精志氏(名古屋名東ロータリークラブ)は、ロータリー研究会の講演「寄付文化を考える」の中で、その問いに対する自身の答えを明快に語りました。私財を投じた社会貢献の実践、「未来への投資」としての寄付哲学。本記事では、一人の経営者の信念と行動から、寄付文化のあり方を考えます。
原点は父の背中にあった
坂本氏の社会還元に対する信念は、創業者である父の姿勢に深く根ざしています。
坂本氏の父は戦後、ジュース自動販売機の開発で事業を成功に導きました。しかし、その成功を個人の財産にとどめることはしませんでした。地元の学生を支援するための奨学金制度を創設し、150人以上の学生に手を差し伸べたのです。「人は一人で生きているのではなく、人に支えられて成長するものである」。父のこの信念と行動を間近で見て育った経験が、坂本氏自身の社会還元活動の原点となっています。
経営再建と株式上場から生まれた決意
父の背中を見て育った坂本氏ですが、その歩みは決して平坦なものではありませんでした。
坂本氏は一度、父の会社を離れて独立し、冷蔵機器などを開発する自身の企業を立ち上げます。その後、ホシザキ電機(当時)に復帰し、経営再建に尽力。見事に株式上場を果たしました(証券コード:6465)。企業の成長と共に株価も大きく上昇し、坂本氏は相応の資産を手にすることになります。
このとき坂本氏の胸にあったのは、かつての父の教えでした。資産を私的に費やすのではなく、社会に還元する。その決意は、父から受け継いだ信念の自然な帰結だったといえるでしょう。
名前ではなく「未来」を残す
坂本氏の寄付活動は、自社株の寄付をはじめ大学や米山記念奨学会など多方面に及びます。しかし、その目的は自分の名前を残すことではありません。あくまで「未来を育てること」に主眼が置かれています。
具体的な支援先は多岐にわたります。青少年育成や自然環境保護といった分野に加え、日本語教育を通じた外国にルーツを持つ子どもたちへの支援、障害者の就労を後押しする施設への助成、さらには特産品を活かした地域振興にも関わっています。一見すると領域はさまざまですが、いずれも共通しているのは「これからの社会を支える基盤への投資」という視点です。
名声のためでも義務感からでもなく、将来の社会がより良くなるための種をまく。坂本氏の寄付は、経営者ならではの明確な投資判断に裏打ちされています。
生涯現役を支える「気力」と「遊び心」
これほど幅広い活動を継続できる原動力は、どこにあるのでしょうか。
坂本氏のモットーは「変化こそ進歩」。同じことを繰り返すのではなく、常に新しいことに挑戦し続ける姿勢を大切にしています。その根底にあるのは「気力」だと坂本氏は語ります。気力さえ失わなければ、年齢を重ねても何でもできる。そう信じて行動し続けてきました。
同時に、活動には「楽しみ」も欠かせません。ペンギン好きが高じてペンギンミュージアムを作ったり、船での日本一周に挑戦したりと、遊び心あふれるエピソードも数多くあります。自身が楽しむことと社会への貢献を切り離さず、両立させてきたことが、長年にわたる活動の継続を可能にしているのでしょう。
日本の将来への投資として
講演の締めくくりで、坂本氏は日本の将来を見据えた投資の重要性を強調しました。文化、教育、地域社会への投資は、巡り巡って企業が持続的に成長できる環境づくりにもつながります。寄付はそのための有効な手段のひとつであり、今後もこの活動を続けていくという決意が語られました。
ロータリアンとして、そして一人の経営者として、坂本氏が実践し続けてきた社会還元の哲学。その根底にあるのは、父から受け継いだ「人は人に支えられて成長する」というシンプルで力強い信念です。寄付文化がまだ成熟途上にある日本において、坂本氏の言葉と行動は、私たちに大きな示唆を与えてくれるのではないでしょうか。
