激減するスナックと飲食業界が直面する危機
1960年代に定着し、昭和の社交場として長く親しまれてきたスナック。しかし近年、その数は急速に減少しています。経営者の高齢化や後継者不足、さらにコロナ禍の打撃が重なり、約10年前には10万軒以上あった店舗数が、現在は約4万4000軒にまで激減しました。
スナックだけの問題ではありません。飲食業界全体が、食材費や人件費の高騰、人口減少に伴う深刻な人手不足に直面しています。帝国データバンクの統計によれば、2025年上半期の飲食店倒産件数は過去最多を更新しており、業界を取り巻く環境はかつてないほど厳しさを増しています。
超高齢化時代に求められる「サードプレイス」
その一方で、スナックのような場所が社会に果たしてきた役割は、むしろこれまで以上に重要になりつつあります。
かつての日本とは異なり、現代は退職後の人生が非常に長くなりました。定年を迎えた後も、人が心豊かに暮らし続けるためには居場所が欠かせません。自宅を「第一の場所」、職場を「第二の場所」とするなら、それらに次ぐ「第三の場所」、すなわち「サードプレイス」の存在が大きな意味を持ちます。
超高齢化が進む中、家庭や病院以外で他者と交流し、社会性を維持できる場所の必要性は今後さらに強まっていくと指摘されています。人とのつながりを日常的に感じられる場があるかどうかが、高齢者の生活の質を大きく左右するのです。
高齢者を支える「介護スナック」の登場
店舗数そのものは減少傾向にあるスナックですが、レトロ文化としての再評価に加え、現代社会のニーズに応える新たな形態が生まれ始めています。その代表例として注目を集めているのが「介護スナック」です。
介護スナックは、昼間に営業を行い、利用者の送迎サービスや看護・介護の体制を備えているのが特徴です。カウンター越しに会話を楽しみ、歌を歌い、なじみの仲間と過ごすというスナック本来の魅力はそのままに、高齢者が安心して足を運べる仕組みが整えられています。介護施設のような堅さではなく、あくまで「楽しみに出かける場所」として機能している点が、従来の福祉サービスとは一線を画すところです。
若者世代が集う「街中スナック」という新潮流
もう一つの新しい動きとして、若者世代を中心に支持されている「街中スナック」があります。
従来のスナックといえば、薄暗い照明にカラオケ、たばこの煙といったイメージを持つ人も少なくないでしょう。しかし街中スナックは、禁煙にしたりカラオケをあえて設置しないなど、現代の価値観に合わせた新しいスタイルを取り入れています。気軽に立ち寄れるカジュアルな雰囲気が、これまでスナックに縁のなかった若者層を引きつけているのです。
こうした柔軟な進化により、スナックは特定の世代だけのものではなくなりつつあります。若者から高齢者まで、世代を超えた地域交流の拠点として生まれ変わる可能性を秘めています。
地域コミュニティを支える「第三の場所」の未来
東京都立大学の谷口功一教授(スナック研究会研究代表者)は、スナックをはじめとする飲食店について、人々が直接顔を合わせて意見を交わし、社会とのつながりを保つための重要な機能を持っていると述べています。
現代社会では、人々の分断や孤立が深刻な課題として指摘されています。地域にある「第三の場所」を守り、育てていくことは、こうした課題への一つの処方箋となり得るのではないでしょうか。
大切なのは、必ずしも大きな取り組みではありません。久しぶりになじみのスナックを訪れてみる。そんな個人の小さな行動の積み重ねが、地域コミュニティを支え、人と人とのつながりを守ることにつながっていくのです。
