コラム

地域コミュニティ再生と空き家活用〜社会課題を解決する企業の参画〜

和歌山県田辺市では、全国的な傾向である核家族化が進み、地域のなかで人と人とが関わる機会が少しずつ失われています。身近に頼れる相手がいないために孤独を感じたり、子育ての悩みを気軽に相談できる場所が見つからなかったりする家庭も少なくありません。こうした状況に対し、行政も「田辺市こども家庭センター」を設置して子育て支援に取り組んでいますが、行政の施策だけで地域のつながりを取り戻すことには限界があり、民間の参画が求められていました。

加えて、田辺市には地域特有の事情もありました。津波などの災害対策として市役所が浸水想定区域から外れる高台へ移転したことなどが影響し、市内の平地では空き家が増加していたのです。人と人とのつながりの希薄化と、活用されないまま残される空き家。この二つの社会課題をいかに結びつけて解決へ導くかが、地域全体の問いとなっていました。

NPOのニーズから始まった協働の取り組み

転機となったのは、子育て支援を行うNPO法人「南紀こどもステーション」から寄せられた一つの要望でした。同法人とは以前から交流があり、活動をさらに広げていくために拠点となる場所がほしいという現場の声が、クラブのもとへ届いたのです。

そこでクラブは、増え続ける空き家を有効に活用し、子育て支援の拠点として整備するプロジェクトを計画しました。地域が抱える二つの課題を一度に解決へ向かわせる構想です。総額200万円規模の事業として地区補助金を申請し、活用できる不動産物件の調査に乗り出しました。資金と人的なリソースの双方を地域へ還元していくこの取り組みは、社会課題の解決に民間が参画する一つのかたちといえます。

物件取得をめぐる行政手続きと税務の壁

実際に動き出すと、いくつもの壁が立ちはだかりました。

まず物件探しでは、市役所の空き家バンク担当者から情報を得ることで、候補となる物件を見つけることができました。ところが、家主がNPOへ物件を無償で提供する意向を示してくださったものの、そのまま譲渡すると家主側に税金が発生してしまうことが判明したのです。会員は市役所や税務署と粘り強く協議を重ね、税負担を軽減できる方法を見いだし、最終的にNPO側への登記を無事に完了させました。

さらに、トイレの水洗化に伴う浄化槽の設置でも難題に直面しました。施設を「住宅」とみなすか「事業所」とみなすかによって必要な浄化槽の規模が変わるため、その判断が難しかったのです。設置数を確定させるため、NPOや県を交えた相談を重ね、結論にいたるまでにおよそ2ヶ月を要しました。一つひとつの行政手続きを丁寧にクリアしていく地道な過程が、拠点づくりの土台となりました。

会員総出の奉仕活動と資金面の取り組み

取得した物件には、前の住人が残した家財が数多くありました。ここで力を発揮したのが、ロータリーが大切にする奉仕の精神です。クラブ会員とその家族など総勢35名が自ら手を動かし、残された不用品を一つずつ取捨選択しながら、2トントラック10台分にのぼる荷物を搬出しました。

作業は屋内にとどまりません。隣地で伸び放題になっていた樹木をチェーンソーで伐採して運び出し、崩落していた避難路には迂回路を設置するなど、実践的な労力支援にも踏み込みました。なお、搬出したごみの処分費用については市が負担しています。

資金面では、トイレの水洗化や内部の改修などに総事業費292万円が必要となりました。この費用は、ロータリー財団からの地区補助金127万円と、クラブの支援金165万円を組み合わせてまかなっています。補助金と自己資金を適切に組み合わせることで、無理のない事業運営を実現しました。

完成した拠点と地域の未来への展望

拠点が完成した後には、NPOや市役所の担当者を交えた意見交換会を開きました。現場の声を何よりも尊重するための場であり、立場を超えた率直な意見や、実際の運営に役立つ実践的なアドバイスが共有されました。

南紀こどもステーションの代表からは、リフォームだけでなく、掃除や片付け、避難路の整備にまで及んだ会員の奉仕によって、親子が安心して集える環境が整ったことへの感謝の言葉が寄せられました。そして、この場所を地域の未来につながる拠点として育てていきたいという決意が語られています。

一つの空き家が、子育て世代を支え、人と人とをつなぐ場所へと生まれ変わりました。社会課題の解決に向けて民間が知恵と労力を持ち寄ることの意義を、この取り組みは静かに示しています。