コラム

地域資源の再生から新規事業へ 現役大工社長が挑む「まちづくり」ビジネス

岐阜県可児郡御嵩町。旧中山道の宿場町として栄えた御嶽宿は、かつて多くの旅人が行き交い、江戸と京都を結ぶ街道文化の一翼を担ってきました。今も往時をしのばせる旅籠や町家が残り、歴史的な景観をとどめています。

しかし、こうした宿場町の多くがそうであるように、御嶽宿もまた現代的な地域課題と向き合っています。人口減少と高齢化が進むなかで、かつて宿場のにぎわいを支えた建物が次々と使われなくなり、空き家として点在するようになりました。歴史的な価値を持つ建築物が、活用されないまま朽ちていく。これは一軒の空き家の話にとどまらず、まち全体の活力にかかわる課題です。

この状況に、一人の経営者が事業として立ち向かっています。

現役大工社長の挑戦と古民家カフェ「かしわ屋」の誕生

その人物が、株式会社御嵩建築の代表取締役を務める亀井和彦氏(可児ロータリークラブ所属)です。亀井氏は経営者でありながら、自らも現場に立ち続ける「現役大工社長」として活動しています。

亀井氏は、御嶽宿に残る江戸時代の旅籠の空き家を入札によって取得しました。そして、建物が持つ歴史的な意匠を生かしながらリノベーションを施し、2023年に古民家カフェ「かしわ屋」としてよみがえらせたのです。

長年使われずにいた旅籠が、地域の人々や旅行者の集う場へと生まれ変わる。それは、大工としての技術と経営者としての判断が結びついた成果でした。かつて旅人をもてなした建物が、形を変えて再びまちのにぎわいを生み出す拠点となったのです。

持続可能なまちづくりビジネスへの展開

亀井氏の視線は、一軒の建物の再生にとどまりません。目指しているのは、地域に点在する空き家という課題そのものの解決であり、それを一過性のボランティアではなく、持続可能なビジネスとして成立させることです。

その考えを形にするため、亀井氏は「みたけまちづくり株式会社」を設立しました。建築を本業とする御嵩建築とは別に、まちづくりを事業として推進する会社を立ち上げたところに、この取り組みへの本気度がうかがえます。事業として利益を生み出す仕組みがあってこそ、活動は続き、次の再生へとつながっていくからです。

この動きは、亀井氏一人の挑戦にとどまりません。隣接する伏見宿では、新たな古民家再生プロジェクトが進行しています。注目すべきは、地元の県立可児工業高校の生徒たちを巻き込んでいる点です。生徒たちが耐震設計やデザインを担い、亀井氏自身は講師として、また施工者として関わっています。

若い世代が地域の再生に実践を通じて携わることは、技術の継承という意味でも、まちへの愛着を育むという意味でも、大きな価値を持ちます。空き家再生の現場が、次の担い手を育てる場にもなっているのです。

「身を削って相手を光らせる」という大工の哲学

亀井氏の仕事や活動の根底には、一貫した哲学があります。それは「身を削って相手を光らせる」という、カンナ掛けに例えられる精神です。

カンナは、木の表面を薄く削り取り、なめらかで美しいつやを与えます。その一方で、刃はひと削りごとにわずかずつ摩耗し、切れ味を保つためには繰り返し研ぎ直さなければなりません。自らの刃をすり減らしながら、相手である木を輝かせていく。亀井氏は、この大工道具のありようを、他者への向き合い方そのものとして捉えています。

この精神は、本業の枠を超えたさまざまな社会貢献にも表れています。災害時に人々の身を守るシェルターハウス、すなわち避難小屋の開発。地域の安全を担う消防団としての活動。そして、ロータリークラブでの奉仕活動です。

亀井氏が所属する可児ロータリークラブでは、会員増強に熱心に取り組む姿が知られています。奉仕の理念を共有する仲間を増やしていくことは、クラブの活力を保ち、地域への貢献をより大きなものにしていくうえで欠かせません。自らを削りながら周囲を輝かせるという姿勢は、ロータリアンとしての活動においても変わることがないのです。

未来へ向けた大きな夢

亀井氏が思い描く未来像は、明確です。宿場町を、三重県・伊勢の「おかげ横丁」のように、多くの人が訪れてにぎわう町にしたいというものです。

歴史ある町並みを保存するだけでなく、そこに人の流れと経済の循環を呼び込む。空き家を負の遺産から地域の資産へと変えていく。その先に、かつての宿場が持っていた活気を、現代の形でよみがえらせるという構想があります。

もちろん、その道のりは平坦ではありません。それでも亀井氏は、試行錯誤を重ねながらも行動を止めることなく、一軒、また一軒と再生を積み重ねています。現役の大工として現場に立ち、経営者として事業を組み立て、地域の一員として仲間とともに汗を流す。その一歩一歩が、大きな夢へと着実に近づいているのです。