コラム

若手の行動力×ベテランの知見 世代を超えたシナジーが生むプロジェクトの成功法則

タイ北部に位置するナン県。豊かな自然に恵まれたこの地域は、その一方で医療インフラの整備が十分とは言えない状況にありました。県立病院では、外科手術に欠かせない電気外科手術機、いわゆる電気メスが不足していたのです。

電気メスは、組織を切開しながら同時に止血も行える医療機器であり、出血を抑えた安全な手術を支える存在です。これが不足するということは、その病院で対応できる手術の範囲が大きく制限されることを意味します。

その影響をもっとも深刻な形で受けていたのが、高度な手術を必要とする妊産婦をはじめとする患者たちでした。ナン県で対応できない手術を受けるためには、約239キロメートル離れた別の病院まで搬送されなければなりません。長時間におよぶ過酷な移動は患者の命に直結するリスクをともない、加えて多大な経済的負担ものしかかります。239キロという距離が、そのまま医療格差の壁として、地域の人々の前に立ちはだかっていました。

この課題に、世代を超えた人々が力を合わせて挑みました。

若手ローターアクターの主体性と行動力

プロジェクトの出発点に立ったのは、20代から30代の若手メンバーが集う大阪北梅田ローターアクトクラブでした。

遠く離れたタイの医療課題を知った若手メンバーは、電気メスの寄贈を目的とするグローバル補助金事業を、自らの手で立案しました。誰かに指示されて動いたのではなく、社会課題を自分たちが取り組むべきテーマとして引き受け、企画からプロジェクトの推進まで主体的に牽引していったのです。

若い世代ならではのフットワークの軽さと、課題を前にしてまず行動を起こす姿勢。この行動力こそが、プロジェクトを動かす最初の原動力となりました。

ベテランのロータリアンが提供した知見とネットワーク

もっとも、熱意と行動力だけで実現できるほど、この事業は単純ではありませんでした。

国際的な社会奉仕を支えるグローバル補助金は、申請手続きが複雑で、国際的な知見を要します。さらに、支援先であるタイの現地クラブとの連携調整も欠かせません。若手メンバーだけでは越えにくいこうしたハードルに対して力を発揮したのが、スポンサークラブである大阪北梅田ロータリークラブのベテラン会員たちでした。

長年にわたって国際奉仕に携わるなかで培ってきた経験と、海外クラブとのネットワーク。これらを惜しみなく提供し、煩雑な手続きや折衝の場面で若手を強力に後押ししました。表舞台に立つ若手を、その知見と人脈によって裏方として支える。この構図が、プロジェクトを実現可能なものへと引き上げていきました。

現場を知ることで生まれた「生きた支援」と協働体制

この事業を確かなものにしたもう一つの要素が、若手メンバー自身が現地へ足を運んだことです。

若手メンバーは実際にタイのナン県を訪れ、医療の現実を自らの目で確かめました。資料の上の数字としてではなく、そこで暮らす人々や医療従事者の姿を通して課題に触れることで、支援の意義を肌で実感したのです。現場を知ったうえで届けられる支援は、机上で完結する支援とは重みが異なります。この経験が、寄贈という行為に血の通った意味を与えました。

さらにこの取り組みは、一つのクラブにとどまりませんでした。大阪西ローターアクトクラブも参画し、複数のクラブによる協働体制が築かれました。志を同じくするクラブが手を携えることで、一クラブでは担いきれない規模の事業が、現実のものとなっていったのです。

世代間のシナジーがもたらす組織の未来

こうして、電気メスの寄贈という医療支援は形になりました。若手の熱意と行動力、ベテランの知恵と裏方の支え、そして複数クラブの協働。これらが噛み合って初めて実現した、持続可能なプロジェクトです。

ここには、組織づくりに通じる一つの成功法則が示されています。若手だけでは、経験不足という壁にぶつかります。ベテランだけでは、新しい一歩を踏み出す勢いを欠きがちです。行動力を持つ世代と知見を持つ世代。この両者が上下関係ではなく役割の違いとして結びついたとき、どちらか一方だけでは到達できない成果が生まれます。

これは、ロータリーやローターアクトの活動に限った話ではありません。企業や組織におけるチームビルディングにも、そのまま当てはまる原理です。若い力の主体性を尊重し、経験ある者がそれを支える。世代を超えたシナジーをどう設計するかは、あらゆる組織が持続的に成長していくための鍵と言えるでしょう。

239キロの壁を越えたこの取り組みは、世代の違いが対立ではなく力の源泉になりうることを、鮮やかに示してくれています。