歴史ある組織やクラブほど、一般の人々にとって「敷居が高い」「何をやっているのか分からない」という、距離のある存在になりがちです。内輪でのクローズドな運営は、居心地の良さと引き換えに、外から見えないという弱点を抱えます。そして、外部から活動が見えないことは、地域社会との距離を生み、不信や関心の低下につながっていきます。
そうしたなかで、あえてプロセスを公開し、「見える化」することで地域住民の信頼を勝ち取り、ファンを増やしている組織があります。2022年に創立された神奈川県の「かながわDEIRC」(第2780地区)です。同クラブは、徹底した開かれた運営とプロセスの見える化を追求することで、地域住民が自然と関わり、信頼を寄せられるプラットフォームとして注目を集めています。クラブ名に活動拠点である「かながわ」を掲げ、従来の慣習にとらわれない新しい組織モデルを体現しています。その取り組みは、透明性がどのように信頼へと転化するのかを考えるうえで、多くの経営者に示唆を与えてくれます。
既存の慣習への疑問から生まれた参加しやすい開かれた組織
かながわDEIRCが設立されたきっかけは、既存のロータリークラブに所属していた3人のメンバーが抱いた強い問題意識でした。彼らは、従来の例会を中心とした運営スタイルに疑問を感じていました。そのやり方では、社会奉仕に向けられるはずのエネルギーが十分に発揮されず、入会のハードルも高いため、社会に貢献したいという強い意欲を持つ人にとって、かえって距離のある存在になってしまっているのではないか。そう考えたのです。
そこで、一人一人の「社会の役に立ちたい」という素直な思いを、直接、具体的な実践へとつなげられる場をつくるため、新しいクラブを立ち上げました。このクラブでは、活動の枠を特定の市町村だけに限定せず、入会手続きや審査も簡素化しています。活動範囲を柔軟にしたことで、地域をまたいで動ける人や、複数の地域に関心を持つ人も参加しやすくなりました。志や意欲のある人が、無理なく、自然に関われるよう組織を簡素にしたことで、多様な人々が自然と参画できる仕組みが生まれています。組織の形式を軽くすることが、結果として人を呼び込む間口の広さにつながっているのです。既存の慣習をそのまま受け継ぐのではなく、目的に照らして本当に必要な手続きだけを残すという発想が、その根底にあります。
例会も理事会も地域住民に「丸見え」にする透明性
かながわDEIRCの運営において最も象徴的な特徴が、例会プロセスの徹底した見える化です。クラブの例会は、藤沢市と真鶴町で交互に開催され、オンライン参加にも対応しています。なかでも真鶴町での例会は、地域住民が普段フリースペースとして利用している「真鶴地域センター」のオープンスペース、いわゆる映像ホールで開催されます。
注目すべきは、例会の様子が仕切りなどで隠されることなく、地域住民から「丸見え」の状態で実施されている点です。文字どおり、活動を社会に解放しているのです。何をやっているのかが見えることそのものが、住民に安心感を与え、自然な関心を呼び込んでいきます。
透明性への姿勢は、例会だけにとどまりません。クローズドになりがちな理事会、つまりクラブの意思決定機関までもが同様に一般公開されています。会員だけでなく誰もが自由に意見を言える、フラットでオープンな環境が整えられているのです。現在21人となった会員全員が何らかの役割を持ち、主体的に関わることで、風通しの良い組織運営が保たれています。オンラインとのハイブリッド開催によって県外や海外の会員にも門戸を開いている点も、開かれた運営を支える工夫の一つです。
「出席」よりも「奉仕」を重視するソーシャルワーク型の実践
開かれた運営を徹底する同クラブは、組織の形式的なルールにもとらわれません。例会への出席を必須の義務とはせず、形式的なルールよりも社会奉仕の実践を重視しています。「奉仕活動のみの参加」も可能としており、本質である活動への参画にフォーカスするという合理的な割り切りがそこにあります。
この姿勢が、地域との自然な接点を生み出しています。クラブの同好会活動には、会員以外の地域住民が数多く参加しています。これまでに、耕作放棄地の再生や地域コンサートの実施、児童養護施設への支援など、地域住民との対話や交流のなかから具体的な課題を見つけ出し、共に解決を目指すソーシャルワーク(生活上の困難や生きづらさを抱える人々に対し、相談援助や環境の改善などを通じて、その人らしい自立した生活と幸福(ウェルビーイング)の実現を支えること)的な姿勢で社会奉仕活動を展開してきました。
こうして、クラブ自体が地域のなかで「見える存在」になったことで、自然と情報の流通が良くなりました。その結果、地域で「何か貢献したいと考えている人」と、実際に「支援を必要としている人」を最適に結びつける、信頼あるマッチングハブとしての機能を担うようになっています。見えることが人と人を引き合わせ、奉仕の循環を生み出しているのです。
見えることが信頼という経営資産を呼び込む
かながわDEIRCの代表である山﨑陽軒氏は、今後も地域と会員を結ぶマッチング機能をより強化し、双方のニーズに柔軟に応え続けるクラブでありたいと展望を語っています。開かれた運営を貫くことが、そのまま組織の目指す姿になっているのです。
この事例が経営者に示すのは、オープンネス、すなわち開放性そのものが持つブランディングの価値です。どれほど素晴らしい活動をしていても、それが外から見えなければ、存在しないのと同じことになってしまいます。逆に、意思決定や活動のプロセスをあえて地域社会に「丸見え」にすることが、住民の安心と関心を引き寄せ、ファンや協力者を巻き込む力になります。
組織の不信感を払い除け、多くの人を味方につけるための鍵は、洗練された宣伝広告ではありません。意思決定プロセスや普段の活動を「丸見え」にするほどの、誠実な透明性にあります。かながわDEIRCの成功事例は、そのことを実証しています。見せることをためらわない姿勢こそが、信頼という最大の経営資産を呼び込む。現代のリーダーにとって、学ぶべき点の多い挑戦だといえるでしょう。
