地域への貢献として、毎年寄付を続けている。清掃活動やイベントの協賛にも参加している。それでも、その活動が地域を本当の意味で良くしているのか、自社にとってどのような意味があるのか、手応えを持てずにいる経営者は少なくないはずです。
寄付やボランティアは尊い取り組みです。しかし、お金や労力を一方向に差し出すだけの支援は、続けるほど負担として意識されやすく、景気が悪くなれば真っ先に削られる対象にもなります。支援を受ける側から見ても、一時的な支援では暮らしの土台は変わりません。
そこで注目したいのが、CSV(共創価値の創出)という考え方です。社会的責任として支援を「差し出す」のではなく、社会課題の解決と自社の価値向上を一致させる発想です。ロータリークラブが各地で取り組んでいる子ども支援の事例には、このCSVを中小企業でも実践できる形で示すヒントが詰まっています。その鍵になるのが、複数の課題や関係者を「掛け合わせる」という視点です。
子どもの困窮は地域経済の将来に関わる問題です
まず、地域が抱えている課題の大きさを確認しておきます。日本では17歳以下の子どもの貧困率が11%、およそ9人に1人にのぼります。ひとり親世帯に限ると44.7%、およそ2人に1人です。年間所得138万円以下という相対的貧困の中で暮らしている子どもたちが、私たちの身近な地域にも確実にいます。
とりわけ厳しいのが夏休みの期間です。学校給食がなくなるため家庭の食費が増え、家計がさらに苦しくなります。十分に食べられずに体調を崩したり、体重が大きく減ったりする子どももいます。レジャーに出かける余裕も、送り迎えをする時間もなく、友人との交流から遠ざかって孤立していく子どももいます。
これは福祉だけの問題ではありません。いま困窮の中にいる子どもたちは、10年後、20年後の地域を支える働き手であり、消費者であり、経営者です。次世代が十分な栄養も学びの機会も得られないまま育てば、地域経済の持続性そのものが損なわれます。地域で事業を営む企業にとって、子どもの困窮は将来の人材と市場に直結する経営課題でもあるのです。
提供したい側と必要としている側を結ぶ仕組み
東京イマジンジョイナスロータリークラブは、子ども食堂のない地域で、低所得世帯に食品や生活用品を直接届けるフードパントリー「お福分け会」を運営しています。対象となる世帯への案内は、自治体の福祉課や社会福祉協議会と連携して行っています。
注目したいのは、物資の調達方法です。障害者雇用に取り組む農業生産法人から、規格外や不ぞろいの農産物の提供を受けています。味や品質に問題はなくても、市場には出しにくい農産物です。生産者にとっては行き場のなかったものが、必要としている家庭の食卓に届きます。
ここでクラブが果たしているのは、物資を自ら用意することではなく、提供したい側と必要としている側を結びつける役割です。余っているものと足りていないものは、同じ地域の中に同時に存在しています。両者が出会えていないだけなのです。
企業に置き換えると、この発想はすぐに応用できます。製造業であれば端材や型落ち品、小売業であれば賞味期限が近い商品やパッケージに傷のある商品、オフィスであれば入れ替えで不要になった備品があります。廃棄すれば費用がかかるものが、地域の誰かにとっては必要な資源です。
さらにこのクラブは、運営のノウハウや運用データを他のクラブへ惜しみなく共有しています。実際に東京本郷ロータリークラブなどがその仕組みを取り入れ、活動は広がりつつあります。
ここにも学ぶべき点があります。社会貢献を自社だけで抱え込めば、担当者の負担が重くなり、やがて続かなくなります。行政や社会福祉協議会、NPO、そして同業他社と役割を分け合い、仕組みとして共有すれば、一社あたりの負担は軽くなり、活動は持続します。自社が始めた取り組みを他社が真似ることを恐れる必要はありません。仕組みを広げた最初の企業として、地域の中で信頼を得ることにつながるからです。
一つの支援で二つの課題を解く掛け合わせ
この考え方をさらに一歩進めたのが、東京小石川ロータリークラブの取り組みです。クラブは、文京区の「子ども宅食プロジェクト」に、要望の多いお米を寄付しています。ここで工夫したのが、届けるまでの過程です。
寄付したお米の小分けと袋詰めの作業を、区内の障害者支援施設「リアン文京」に委託しました。この施設は就労継続支援A型の事業所で、利用者は雇用契約を結んで働いています。お米の袋詰めという作業が、利用者にとっての就労機会となり、工賃の向上にもつながりました。
結果として、一つの寄付が二つの課題を同時に解いています。困窮世帯への食料支援と、障害のある人の就労機会の創出です。投入した資源は同じでも、届ける過程を設計し直すだけで、生まれる価値は倍になります。
この「掛け合わせ」の発想は、企業の事業活動にも組み込むことができます。たとえば、自社の商品の検品や梱包、発送前の封入作業、販促物の組み立てといった業務の一部を、地域の就労支援施設に委託するという方法があります。外注費として支払っていた費用が、そのまま地域の就労支援になります。
大切なのは、慈善として特別な活動を新たに起こすのではなく、すでにある業務の流れの中に社会課題の解決を組み込むことです。調達、製造、物流、販売といった事業の各段階を見渡し、どこに地域の誰かが関われる余地があるのかを探します。そうして組み込んだ取り組みは、本業が続く限り続きます。予算が厳しくなったときに削られる寄付とは、持続性がまったく異なります。
眠っている資源が技術教育と地域の安全を生みます
もう一つ、性質の異なる掛け合わせの事例を紹介します。岩手県の水沢ロータリークラブは、10年かけて集めたアルミ缶のプルタブを保管していました。もともとは車いすの寄贈を目的に集めていたものですが、その目的が満たされたことで、使い道のないまま眠っていたのです。その量はおよそ100万個、ドラム缶4本分にのぼりました。
クラブはこのプルタブを、地元の岩手県立水沢工業高校の機械工作部に寄贈しました。生徒たちはプルタブを溶かして原材料とし、鋳造の技術を学びながら、ご当地キャラクターをかたどったアルミ鋳物の交通安全啓発看板を制作しました。完成した看板は地域に設置されています。
ここでは三つの価値が同時に生まれています。眠っていた資源が有効に活用されたこと、高校生が実際のものづくりを通じて技術を学び、挑戦する場を得たこと、そして地域の交通安全と防犯に貢献したことです。
企業にも、同じように眠っている資源があります。倉庫に積まれたままの旧型の資材や在庫、使われなくなった設備、蓄積してきたデータやノウハウ、平日の夜や週末に空いている会議室や駐車場。自社にとっては価値がないと思っていたものも、別の誰かと組み合わせることで新しい価値を生む可能性があります。まずは、それを資源として捉え直すことが出発点になります。
地域の高校や大学、専門学校との協働には、さらに大きな意味があります。生徒や学生にとっては、教室では得られない実践の場になります。企業にとっては、地域の若い世代に自社の存在と仕事の中身を知ってもらう機会になります。人材の確保が難しくなる中で、地元の学校とのつながりは採用の面でも大きな力になります。地元の新聞や行政の広報で取り上げられれば、取引先や地域からの信頼も高まります。
掛け合わせ型CSVを進める三つの手順
ここまでの事例をもとに、自社で掛け合わせ型の取り組みを進める手順を整理します。
自社の未利用資源を棚卸しする
最初に行うのは、自社が持っている資源の洗い出しです。余剰の商品や資材、端材、使っていない設備や空間といった目に見えるものだけでなく、社員の技術や専門知識、取引先とのネットワーク、情報発信の手段なども含めて書き出します。ポイントは、自社では価値がないと思っているものほど丁寧に拾い上げることです。プルタブの事例が示すように、眠っている資源こそが掛け合わせの素材になります。
地域の課題を複数並べて見る
次に、地域が抱える課題を一つではなく複数並べて把握します。子どもの困窮、障害のある人の就労、高齢者の孤立、若い世代の地元離れ、交通安全や防犯など、自治体の計画や社会福祉協議会、地域のNPOから得られる情報は数多くあります。課題を一つだけ見ていると、支援は一方向になりがちです。複数を並べて見ることで、ある課題の解決が別の課題の解決にもつながる組み合わせが見えてきます。
他の事業者や施設、学校を過程に組み込む
最後に、自社の資源と地域の課題を結ぶ過程の中に、他の事業者や福祉施設、学校をどう組み込むかを設計します。お米の袋詰めを就労支援施設に委ねたように、プルタブを工業高校の実習に結びつけたように、誰がどの段階に関われば価値が重なるのかを考えます。自社がすべてを担う必要はありません。結び役に徹することで、少ない負担で大きな成果を生むことができます。
地域の持続が自社の持続を支えます
「情けは人の為ならず」という言葉があります。人にかけた情けは、めぐりめぐって自分に返ってくるという意味です。地域の社会課題に向き合う企業の姿勢も、まさにこの言葉のとおりです。
地域で事業を営む企業にとって、地域の経済と暮らしが安定していることは、事業を続けていくための前提条件です。子どもたちが健やかに育ち、障害のある人もない人も働く場を持ち、若い世代が地元に誇りを持てる地域であれば、そこには人材が育ち、市場が生まれ、信頼が積み上がっていきます。地域社会への投資は、最も確かな事業継続の戦略でもあるのです。
掛け合わせ型のCSVは、大企業だけのものではありません。むしろ地域に深く根を張り、行政や施設、学校と顔の見える関係を築きやすい中小企業にこそ向いている手法です。まずは自社の倉庫や業務の流れを見渡し、眠っている資源を一つ見つけるところから始めてみてはいかがでしょうか。
